先週のロサンゼルス。タッチスクリーン搭載のMacBook Proを公開した翌日のことでした。Appleの新CEO、ジョン・ターナスはWIREDのインタビューで、こう言い切りました。「私たちはAIのためのAIは出しません。」機能が正しく動作するなら、ユーザーはその結果をAIが作ったのか従来のソフトウェアが作ったのかを気にする必要すらない、というのです。さらに、AIエージェントが今のアプリに取って代わるという見通しにも一線を引きました。「製品づくりは、きわめて人間的で個人的な仕事です。」
ターナスは9月1日、ティム・クックの後を継いで就任しました。彼が引き継いだ座は楽なものではありません。Appleは数年にわたりAI競争で後れを取っていると評価されてきましたし、強化版のSiriもこの夏になってようやく世に出たばかりです。通常、こうした立場の経営者であれば、遅れを取り戻すとしてより多くのAI機能を投入すると約束するのではないでしょうか。ところが彼は正反対に、「やらないこと」を宣言したのです。

ユーザーが知らなくてよいことが基準だ
私はこの発言について、「やらない」という宣言そのものよりも、その基準に目が行きます。AIを使ったかどうかをユーザーが意識する必要がないという言葉は、AIを機能一覧に載せるためには使わない、という意味だからです。昨今、多くの企業がAIを「どれだけ入れたか」で競い合っているのとは、趣が異なります。SKテレコムは最近「AX革新2.0」を発表し、従業員4,000人以上がエージェントを自ら作った経験があり、1,500個が常時稼働しており、構成員の93.8%がこの変化に共感しているという数字を示しました。CEO直轄のタスクフォースがデータ権限を整備し、組織ごとに3か月間、業務全体をAI中心に組み直す実験まで行っています。スピードと参加率で見れば、申し分のない推進力です。
私はこのスピード自体を責めるつもりはありません。ただ、「どれだけ入れたか」が成果の尺度になった瞬間、組織は静かに数字を増やす誘惑に陥りやすくなります。エージェント数、参加人数、共感率。いずれも意味のある指標ですが、そこに「なぜこの業務には入れなかったのか」を説明できる組織は、多くないのではないでしょうか。ターナスの発言が鋭いのは、まさにその問いを裏返して投げかけているからです。
静かに成果を出したのは範囲を絞った側だった
実際に静かに数字を出した事例を見ると、この基準が見えてきます。HD現代ロボティクスは、PalantirのAIを産業用ロボットの現場課題の解決というただ一つの業務に適用しました。平均21.5日かかっていた処理期間は7.9日に、63%短縮されました。全社転換や組織再設計といった大仰な宣言はなく、最も反復的でデータが蓄積されている一つの仕事にのみ集中した結果でした。私は、この二つの事例は結局同じことを語っていると考えます。ターナスが「ユーザーが知らなくてよいように」と言ったことと、HD現代ロボティクスが「この業務一つだけ」と範囲を絞ったことは、どちらもAIを入れる場所を数字ではなく有用性で決めたという点でつながっています。
30年近く企業の技術戦略を見てきて、私は似た場面を何度も目にしました。新しい技術が登場すると、組織は必ず二つに分かれます。「どれだけ早く、多く入れたか」を示そうとする側と、「この仕事にはなぜまだ入れていないのか」を説明できる側です。前者は発表資料の上では華やかですが、1年後に振り返ると使われない機能ばかりが積み上がっているケースが多くありました。私はこれを「証明疲れ」と呼んでいます。AIを導入したことを示すために注いだ力が、そのAIで何を解決したのかを説明する力を上回ってしまう状態のことです。
今の組織でも、一度自問してみる価値があります。今年AIを「入れた」箇所を挙げられるなら、「入れないと決めた」箇所とその理由も、同じように語れるでしょうか。私たちが企業のAI導入の構造を見るときに最初に確認するのも、まさにこの点です。弊社のTechScan診断で、その基準が今どのあたりにあるのかを点検してみるのもよいでしょう。